May
29
2006

山猫の夏 −サンパウロの思ひで

Author : Mango | 2006.05.29

山猫の夏講談社文庫南北アメリカ大陸を放浪中、サンパウロ日本人街の日本語古書店で購入したのが出会いです。私は活字中毒なので、そのときは激しい禁断症状に襲われていたんです。読むものがなくると海外旅行保険の約款や、持ち歩いていた英語辞書を端から読み始めたりして・・・。

サンパウロでようやく日本語の活字を補給して、その後はそれこそむさぼるように読みました。

タイトルは「山猫の夏」。船戸与一の手による南米三部作の一つです。

「山猫」こと弓削一徳は日系二世、舞台はブラジル東北部。

物語は現代のブラジルから第二次大戦後の混乱期のサンパウロ日本人

社会にまで踏み込んでいきます。悪名高い「勝ち組・負け組」に関する

騒動が数十年後の物語に影を落としているんです。

今自分が立っているこの地に、そんな事が・・・。

そう思うと感無量。

いわゆるドンパチありのハードボイルドなんですけどアクションは

結構地味なほうだと思います。でもそこが上手く押さえつけてる

カンジでイイ。主人公をヒーローに仕立て上げなかったところなんかもね。

そして、全編にわたって貫かれるブラジル臭さがスゴイ!

太陽がギラギラ照りつけるブラジル東北部なのに、頭に浮かぶのはくすんだ景色ばかり、打ち捨てられた様な虚無感が頭を去りません。

この物語の舞台には陰鬱で理不尽な事がそこら中に横たわっています。

避けて通れないのです。でもそれらを放り投げることによって、今を

楽しもうとする強引な陽気さは一種の諦観なのでしょうか。

初めてブラジルに足を踏み入れた時から、なんとなく感じていた空気が、

この架空の物語との出会いによって急激に形を成し、現実感を伴い

始めたのでした。

あの時、あの場所でこの本と出合えた幸運を、10年以上経って今また

思い返してみました。

まぁ個人的な思い入れは別として、エンターテイメントとしても絶妙です。

この本は難しい事抜きで楽しめますよ!

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